五年ほど前の話。実家の母が癌で亡くなった。程なくして前妻と別れた。ずっと続くと思っていたものがあっけなく終わった。母が病室にいる時もその後も何の役に立つかわからないけれどシャッターを切った。実家と東京を往復しながら半ば義務であるかのように写真を撮った。写真は撮られたその瞬間から現実とは違う方向へ走り出す。ましてや撮ったときの気持ちなんて写るわけがない。気持ちが写っているように見えたならばそれは写真に騙されている。にも関わらず撮った自分自身が写真を見返して騙され記憶に刷り込まれる。それでいい。一枚一枚写真を撮り続けながら僕はほんの少しずつ都合よく記憶を書き換える。そうすることによってだけ前に進むことができる。いや前に進むことができると信じたい。

2020年11月
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